家と庭

自然と共に時を刻む

作庭家:長谷川 隆明
  • −飯田 僕にとって建築とは庭ありきのもの。家を遠くから見たとき、近くから見たとき、中から見たとき…どんな感じの木がどんな風に植わるかのイメージを持って住まいの設計をします。いい景色があるから窓をとる、見えなくてもいい眺めは閉じる。色々な兼ね合いはありますが、それが僕のやり方。風景を繋げ、家の内と外を繋げる役割が庭にはあると思うんですよね。

−長谷川 それはもう住宅設計の域を超えて造園が始まっていますね。庭と建築の境界を曖味にするというのは、僕も意識すること窓のすぐそばに大きな木を植えると、葉が揺らぐ音や影やにおいが家の中まで入ってくる。

そうすると、新しい家でも気負わない空間になりますね

−飯田 普段着で公園に行っているような感覚になるんだろうね。

−長谷川 そうかもしれませんね。家の中までよそいきだと疲れてしまう。

−飯田 長谷川さんの素晴らしいところは僕の言菓の節々を拾って設計の意図を汲んでくれる点。それに5年後10後の景色を見て木を植えるから、やりすぎないところ。庭は育つもの、生け花のようにその瞬間が完成ではないとうことを踏まえて作庭していくところに、自然への愛を惑じますね。

−長谷川 木が大きくなるのは熟すということ。住宅に使われるのが一般的になった新建材は基本的に劣化していく一方なのだから、家を成長させるのは庭しかないと思っているんです。

−飯田 僕が目指すのも、まさに木が根を張るように、時が経つほどに家もその土地に根付いていく「土着的建築」。竣工したときが完成ではなく成長していく住まいをつくりたいから経年美化していく素材を使います。だからひとまず竣工したどの住まいも現在進行。過去のものにはならないんですよね。

−長谷川 そういった意味では、庭の手入れはずっと続きます。手人れこそ庭づくりと言ってもいいほど。髪の毛を切るように、爪を切るように、当たり前にメンテナンスをしてもらいたいんですよね。僕も、作庭をお手伝いした植物のメンテナンスはずっとしていきたいと思っています。当初イメージした雰囲気を壊さないように手入れをして、成長させていきたいのです。でもそうすると…メンテナンスにかかる時間がんどん増えて新しい庭を手掛ける時問がなくなってしまうな、と最近思うんです。

−飯田 いやいや、新しい庭も作ってくれないと困りますよ(笑)

  • 谷川 そうですね…頑張ります(笑)。でも、庭は僕が作っているわけではないんですよ。自然を建築という人工物に添えているだけ。イタコとかシャーマンのような自然の力を伝える役割の人に近いものがあるのかもしれませんね。とびっきりの感動って人が作っていないもの、自然界のものに対して感じることが多いですよね。飯田さんはそのことを踏まえての作庭を僕に期待しているのだと思っています。

−飯田 例えば雨の音が心地よいとか、菜っばが揺らぐ影が美しいとか…その感覚を得るために家と庭があるのだと思う。大それたことじゃなくても、当たり前に感じることを当たり前に表現していきたいんですよね

−長谷川 無責任かもしれないけど、植物が植えた後どうなるかは、僕には5割しか分からないんです。もちろんどれくらい大きくなるとかどんな虫がつきやすいとか、そういう勉強はしているけれど、計り知れない部分はどうしてもある。そこはきちんとお客様に説明しないといけないところですね。あととはお客様にその想定外の部分を受け入れる構えがあるかどうか…

−飯田 予想していなかったことを楽しめたら、暮らしはうんと楽しくなるはずですよね。

−長谷川 今はインスタとか、ビジュアルイメージで「庭にはこの木がいい!」って決めてしまうような風潮があるけれど、植物にはビジュアル以外にもいいところがたくさんある。例えば木のにおいや枝が揺れる音。例えば子どもが木に登ったり、葉っぱをすり潰してままごと遊びをすること。そういう形としては残らない部分、庭があることで得られる感覚とか記憶とか…そういうところが一番ではないかと思うんです。「実家にあった木を植えたい。」僕が庭づくりをお手伝いした家のお子さんが成長してそう言ってくれたら、本望ですね。

−飯田 本当にそう。以前僕が設計した家の住まい手さんのお子さまが、「結婚したら家を作ってください」って言ってくれて、すごく嬉しかったな。日本人がDNAとして持っている感性が違和感を覚えず、どこか懐かしいと感じるような建築や庭を後世に残していきたいですね

−長谷川 僕たちの世代は、庭に興味がある人とない人に二分されています。それって庭という存在が変わり目に来ているということだな、と感じます。

−飯田 庭を手入れして、家も大切にする「手を掛ける喜び」を知っていただけたら、暮らしぶりや人間性は豊かにっていくはずです。そのことを伝えるために、僕たち世代はもっと頑張っていかないといけませんね。

装景NOLA

作庭家:長谷川 隆明