お問合せ・資料請求

住まい手・つくり手の声interview

2021.08.03

空間に寄り添い、つなぎ、そして彩る

狐塚建具店|狐塚芳則

−飯 狐塚さんとの付き合いはもう15年になりますね。建具の納まりだけでなく、建築全般について本当にたくさんのことを教わってきました。

−狐塚 飯田君は志を持っているけど素直だからね。教えてください、って言われると職人っていうのは張り切っちゃうものだよ。

−飯 建築の楽しさを僕に教えてくれたのも狐塚さん。職人さんたちと一緒に作り上げていくことの面白さを知った途端、建築が楽しくて仕方がなくなったんです。

−狐 飯田君の設計する家は一筋縄ではいかないこともあるけれど、職人みんなで知恵を出しあって作っていくから楽しいねぇ。 家って感情がこもるから、楽しい現場だった家はいい家になるんだ。特に建具は動かすものだし、大工さんが作る枠に他人である自分が作った商品を納めるわけだから、どうしても図面のままだと納まりがうまくいかないところが出てくる。そんなときに等身大でぶつかりあって、一緒に真剣に考えていくことのできる関係でないとね、あとで迷惑がかかるのはお客さんだから。

−飯田 そういう意味でも僕自身がいつまでも意見を言いやすい人間でいないとな、と思っています。

−狐塚 現場にいて、飯田君の車のエンジン音がしたら、おー来た来た、ちょっかい出せる人問が来た、って嬉しいんだよね(笑)。飯田君と職人たちとの飲み会も本当に和気あいあいとして楽しいもんなぁ。

−飯田 仕事じゃなくて飲み会ですか!?(笑)。でも、そういうところでコミュニケーションをとってお互いの考えを知るというのはとても大切なことだと思っています。狐塚さんとは目指す建染の方向が同じだから、分かってもらえるという信頼がありますね。

−狐塚 例えばガラス扉の図面を見てこの木枠は飯田君にしては太いからもっと細くしていい?と電話したことがあったね。

−飯 僕としてはそれくらいの太さがないと強度的にもたないかなと設計したのだけど、ほんとはもっと細くしたいのだと察して提案してくれたんです。お互いヒントをもらったり、できるんだと発見したり、いい関係ですね。

−狐塚 それにしても飯田君は木製建具にこだわるよねぇ。建具屋にいわせれば、外部建具に関しては正直なところ気密性のリスクはある。今はいいアルミサッシもたくさんあるからね。

−飯田 木製建具にしかできない空間構成というのがあると思うんです。木製建具は開けるときの手触りがよく、あたたかい。触ったとき冷たいと愛がない感じがするでしょう?

−狐塚 それはあるね。今思ったのだけど、建具の「具」は道具の「具」ではなく、味噌汁の「具」、つまりは索材なのかもしれないね。単に味噌汁が飲みたければ味噌だけ溶いて飲めばいいけど、具を入れるから特徴が出る。

−飯 なるほど、空間が味噌汁で、建具はその空間を彩る素材ということですね。

−狐塚 どんな建具を入れるかで空間はがらっと変わる。この現場だって、格子や板戸を入れれば純和風の空間になるし、アーチ型みたいな洋風の建具にしたら、洋風な空間になる。いたってシンプルな建具を入れればカジュアルな空間になるだろうね。

−飯 建具は使うものだから、純粋な装飾ともまた違いますよね。

−狐塚 木はどうしても傷がつくけど、そこがいいんだよね。家がずっと綺麗なままだと面白くない。柔らかい木はすぐに傷ができるけどそれが思い出なんだよね。例えば我が家の床はヒノキなんだけど、今はもう20代の息子たちが小さい頃、おもちゃを片付けなくて俺が怒ってそのおもちゃを踏んづけてぐちゃぐちゃにしたことがあったんだ。そのときにできた床の傷を見て、今でも笑い話になったりするよ。

−飯 まさに家族の歴史ですね。作り手の顔が見えるというのも、既製品の建具にはない木製建具のいいところ。住まい手さんは、この建具はあの髭と坊主頭のおじさんが作ってくれたって目に浮かびますもんね。

−狐塚 現場にお客さんが来てくれて、家に関係ない話で盛り上がつて仲良くなることもあるもんな。

−飯 そうやって、住まい手さんと職人さんの関係性が深まるんですよね。住まい手さんに楽しそうな現場ですね、いい仕事してくれていますね、と言われると本当に嬉しい。このチームワークは冗談みたいだ、と同業者には言われます。職人さん同士で次の工程の職人さんに、そろそろ出番だから来て、って連絡してくれる現場なんて、普通では考えられないですよね。

−狐塚 飯田君の現場には工程表がないもんね。

−飯田 作ったこともあったけど、狐塚さんがこんなの見なくていい、ってみんなに言ったんじゃないですか(笑)。

−狐塚 でも引き渡し期日の前にはみんなできちんと仕上げるだろう?

−飯 あの前日の追い込みは本当にすごいと思います。図面を描くのは僕ですが、実際に作るのは職人さん。住まい手さんも含めて僕たちはひとつのチームだという気持ちを今後も忘れずにいたいですね。